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新しい現実療法 (The New Reality Therapy)

ウイリアム・グラッサー〔村瀬旻・公子/柿谷正期 共訳〕

1965年に『現実療法』(Reality Therapy)が出版されて以来、現実療法は改善を重ねてきている。1970年代に私は8つのステップを止めて、後に「コントロール理論」を現実療法の基本的理論とするようになった。しかし、1996年にコントロール理論を「選択理論」(choice theory)に改名してから、私のカウンセリングの仕方に大きな変化が出ている。たとえば、書籍『選択理論』には、2つの詳しいカウンセリングの事例が入っている。第6章のフランチェスカと、第9章のテリーのケースである。読者の皆さんが注意深くこの2つ事例を読まれるならば、私のカウンセリングの仕方は、元の現実療法とかなり違っていることに気づかれるであろう。容易に認めやすいステップはもはやどこにも存在しない。

このことは、カウンセリングそのものがまったく変わってしまったということではない。ほとんど例外なく現在の問題を扱うことと、そして症状に焦点を合わせないことは、今までどおり現実療法の中核である。今日私が行っていることは、いずれも選択理論として私が理解していることに基づいている。この変化は引き続き『選択理論』の後に出版された本『15人が選んだ幸せの道』(Reality Therapy in Action)、『愛とはいったい何ですか?』(What is This Thing Called Love)(未刊)、『交際と結婚』(Getting Together and Staying Together)(未刊)、そして最新の『どんな生徒でも成功できる』(Every Student Can Succeed)(未刊)で明らかになっている。選択理論は私たちのカウンセリングのなかに統合されてきているので、今や多くの人々が「選択理論」 (choice theory)を「選択療法」(choice therapy)と誤って呼ぶほどである。

私はウイリアム・グラッサー協会の会員にぜひともこのような変化に気づいて欲しいので、2001年4月にハーパーコリンズ社から『15人が選んだ幸せの道』のペーパーバック版が出版されるときに、英文の書名を『選択理論によるカウンセリング-新しい現実療法』 (Counseling With Choice Theory: The New Reality Therapy)と改題した。書名が変わっただけで、内容そのものには何の違いもない。

私の考えが大きく変わったことは、はじめ『選択理論』の中で明らかにしているが、その大きな変化を私のカウンセリングのすべてに取り入れている。このような新しい変化は、1996年以降の本に表されている。この変化とは、「すべての不幸な人がかかえている中心問題は(貧困や、不治の病、政治的な横暴といったことを除けば)、お互いが望んでいるのに、互いにうまく関わっていけないことにある」ということである。

したがって、新しい現実療法によるカウンセリングでは、カウンセラーは終始その中心問題に焦点を合わせる。つまり、セラピーの目的は、クライエントが自分の人生で重要な人々との関係を改善できるようにすること、あるいは、そのような人間関係が欠落しているなら、新しく満足できる関係を創れるように支援することである。

実際には、新しい現実療法では上記の太字で示した中心問題の2つの側面に焦点を合わせる。すなわち、一つ目は、カウンセラーとクライエントの関わり方である。元の現実療法で「関係づくり」と言われていた部分である。二つ目は、クライエントの現在不満足な人間関係、あるいは満足な人間関係の欠落である。これをいかに行うか、いつ行うか、カウンセリングのなかのどの時点でどの側面を話し合うかは、カウンセラーのスキルによる。

カウンセラーとクライエントの関係はセラピーの中核の半分をなすものであるから、カウンセラーはたえず自分の役割を評価し、セラピーのこのきわめて重要な側面に創造的に取り組むようにする。1996年以降の本を読むと、私のしているユニークな方法から良いアイディアが得られるであろう。『15人が選んだ幸せの道』の最初の事例で、ジェリーと部屋の椅子に私がどのように対処したかは、ジェリーとの関係を大切にしながら、同時にカウンセリングを進めて行く創造的なやり方の一例である。

クライエントが人間関係を改善したり、新しい関係を築いていくのを支援するために、クライエントの現在の行動によって、望ましい関係が得られるのか、または得られないのかをクライエントに評価してもらうことは、新しい現実療法においてもしっかり行われる。しかし、クライエントとあなたとの関係が十分に強く、肯定的な答えが得られるだろうと確信できるまでは、この評価の質問をしないように注意を促しておきたい。機の熟さない段階でこの微妙な質問をすると、クライエントとの関係を損ね、治療は成り立たなくなるかもしれない。しかし同時に、答えがあまりにも明らかに肯定的であるために、クライエントがそのような質問をしたあなたの判断力を疑うようであれば、そのような質問はしないようにと注意しておきたい。

カウンセラーは自分自身の行動しかコントロールできないので、クライエントと自分とを引き離してしまうようなことを言わないこと、また、クライエントと彼らの人生の重要な人との距離がさらに離れるようなことを言ってはならない。台本のように決まった手順、すなわち(1)クライエントの願望を探り、(2)それを得るために何を行っているかを見つけ、(3)行っていることを評価してもらう、そして、(4)よりよい計画を立てる手助けをする、といった決まった手順に従う危険性は、上記の段落の終わりに述べておいた。お決まりの手順は、どんなものでも、それを使った時には不適切で、カウンセリングが目指しているものが得られないかもしれない。自分自身で判断することを学び、これまでの方法に囚われてはならない。

1996年以降のすべての本にはっきりと示されているように、新しい現実療法を用いてカウンセリングをしているときに、私が言うことはすべて、選択理論における私の信念にもとづいている。すなわち、「人間にとっての唯一の問題は不幸であること」である。つまり、あなたがカウンセリングをする全ての人は不幸なのである。さらに、人は不幸であるとき、「彼らが選ぶ行動を予測することはできない」。しかし、選択理論にしたがえば、不幸な人々が選択する膨大な数の行動が、『精神疾患の診断・統計マニュアル 第4版』(DSM-Ⅳ)にまとめられている。

このマニュアルは「不幸な人々が人生で選択した行動」と呼ぶべきであろう。しかしながら、不幸なあるいは異常な選択は、確かに基準からかなり離反し、とても選択とは見えないものであっても、精神病ではない。アルツハイマー病は明白で、容易に診断できる脳への障害がある。精神分裂病では、その脳の働きはとてつもなく独創的であるが、脳の器質的、化学的な障害はこれまで見出されていない。

私が不幸な人たちのカウンセリングをするときに、私のカウンセリングを導くさらに3つの事実がある。すなわち、1)彼らが不幸なのは、現在、満足できる人間関係を持っていないからである、2)彼らが満足できる人間関係を持っていないのは、どちらかあるいは両方が、関係を改善しようとして、外的コントロール心理学を用いているからである、3)どちらかあるいは両方が、相手が用いている外的コントロールから逃れようとしているからである。こうした不幸は、みじめな結婚や、授業中に破壊的になったり集中できなくなる子どもたちに、はっきりと見ることができる。

新しい現実療法では、カウンセラーは、直接的にせよ間接的にせよ、外的コントロールを用いないで選択理論を用いるようクライエントに教えようとする。また、外的コントロールについて十分に教えて、彼らが他人のコントロールから逃れられるようにする。1996年以降のすべての本の事例を読めば、いかに選択理論が私のカウンセリングに統合されているかが分かるであろう。

私は講師陣の皆さんに「新しい現実療法」を教えてもらいたいと思っている。新しい現実療法はとても効果があり、とても面白いことがわかるであろう。昔の現実療法の持つ不自然な制約から逃れることが求められる。しかし、昔のステップの有用なものは使っていくことができる。それらは、型にはめてでなく、創造的に使えば今も活用できるものである。

The William Glasser Institute Newsletter, Winter 2000より

参考書籍